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声量について
人間が歌声として使うことの出来る発声法の中で最大の声量を得ることの出来る発声法。それがベルカント(オペラ)唱法です。
ヨーロッパにおいてマイクやPAが存在しない時代、歌手がフルオーケストラの演奏をバックに観客席の最後尾まで声を聴かせるためには声量が最優先されました。
どんな美声も聴こえなければ無いも同じ。ベルカント唱法がヨーロッパにおいて生まれたのは必然だったと言えます。
しかし最大の声量を得る代わりに「音色が限定されてしまう」「全ての母音や子音を正確には発音出来ない」などのデメリットも生まれました。
マイクが発達した現在ではオーケストラをバックに歌おうとも声量を最優先させる必要はありません。結果、歌手には好きな発声を自由に選択する権利が与えられましたが、現在もオペラは古典芸能としてスタイルを変えることなく多くの人に親しまれています。
さて、それほどまでに声量が必要とされないポップスにおいても声量不足に悩む人は少なくありません。
声の強弱というのは喉頭原音(声帯振動により生まれる声の原音)のエネルギーと共鳴効率で決まり、そのエネルギーは声帯振動の振幅の大きさで決まります。
声帯振幅の大きさは声門抵抗(声帯の閉鎖力)と声門下圧(閉じた声帯の下から上がってくる呼気の圧力)及び喉頭の効率で決まります。
ただし、呼気圧がいくら強くても声門閉鎖力が弱ければ息が抜けてしまうので換声率(呼気が声に変換される割合)が下がってしまい嗄れ声になってしまいます。ブレスも長く続きません。
声帯をコントロールするための内喉頭筋と言われる筋肉群の中でも横筋(声帯の後ろ端を閉じる筋肉)及び外筋(声門中央部を内側に接着させる筋肉)が正しく働かなければしっかりと声帯を閉じることが出来ません。世帯の後端の閉鎖が悪いと声がひっくり返りやすくなってしまいます。
数種類に分かれる内喉頭筋はそれぞれを別々に意識化で調節することは不可能と言われており、二つ以上の筋肉が連動したり総合的に調整されたりしているので各種補助手段を併用して練習する必要があります。
逆に声帯閉鎖力がいくら強くても声門下圧が低ければ声帯を十分に振動させることが出来ません。どちらか一方が強すぎても弱すぎても強い声は作れませんし、その両方の時間的タイミングが合わなければ目的にかなう強さの声をだすことが出来なくなってしまうでしょう。
発声時、他人にお腹を強く押されると声量が上がる人は呼気圧が声門閉鎖力に対して弱いということです。
腹式呼吸をしっかりと身に付けることにより、深い息の支えを作り、腹筋と背筋を効率よく使うことでしっかりとした呼気圧の確保が出来ます。
声の抜けについて
一般に「通る声」と言われる声は声量と間接的に関係しています。
人間の耳というのは全ての周波数を等しく均等に聴き取ることが出来ません。極端に高い周波数と低い周波数は大音量でも小さく聴こえ、最も聴き取りやすい3000Hz付近の音は小さくとも大きく聴こえます。
通る声による歌唱というのは最も聴取感度のよい2000〜4000Hz付近にフォルマント(音色を作るための特定周波数)を集中させることを言います。
これにより声が通るようになり結果的に声量が上がるのと同じ効果をもたらします。しかも声の明瞭感がアップするので一石二鳥です。
この「通る声」を作り出すのに必要なことは喉を開いて発声することですが、喉を開くというのは単に口を大きく開くのではなく喉頭蓋を開けることを指します。このことはしばしば勘違いされています。
喉頭蓋は普段、飲食物を飲み込む際に気管にフタをする役目を果たし、呼吸時には開いている器官です。声の通らない人は発声時においても喉頭蓋が後ろに倒れ、開きが悪い状態です。
実際に声の通る人と、そうでない人の喉の中をファイバースコープで観察した医師によると、このことはほぼ間違いないそうです。
そして「通る声」を作り出す上で欠かせないもう一つの大きな要素に鼻腔共鳴があります。これは私の体験談ですが、その日、私は片方の鼻がやや詰まった状態で歌っていました。
私の声を熟知しているPAの方が『いつもと声が違う、抜けが悪く、耳に飛び込む倍音成分がない』と告げてきました。そこで薬を使い鼻の詰まり取り除いた所、次のステージでは一気に声の抜けが良くなり、声が耳に飛び込むようになりました。
これにはPAの方も『抜ける倍音を生み出すのは声帯だけじゃないんですね!!』と驚いていました。
これまでに私がレッスンした生徒さんで最初から鼻腔共鳴を十分に使いこなしていた人はいません。これは複数のトレーナーの友人達に聞いてみても同じ意見でした。
大半の人は鼻腔共鳴を意図的に鍛える必要があります。
と言っても鼻声で歌うのとは意味が違います。
声を出した際、自然に鼻腔共鳴が得られるようにすることです。
腹式呼吸への過信?
「発声ワンポイントアドバイス」のコンテンツでも取り上げましたが、腹式呼吸では横隔膜を下げ、肺を下方に広げます。胸郭が広がることで自然に外界から空気が流れ込み、下方に圧迫された内臓が行き場を失い、全ての方向に広がろうとすることでお腹や腰が膨らみます。
生理学上は鼻のみで呼吸するのが理想ですが、歌う上では出来るだけ早く吸気を行うことが
必要とされますので鼻からの吸気のみでは間に合いません。口からの吸気を併用します。
逆に息を吐く時は吸った息を出来るだけ長く持たせる必要があるので「呼気の支え」が必要になります。
次のような意見、以外と多くないですか?
「上手く歌えない原因は腹式呼吸が出来ていないから」
確かに腹式呼吸は多くの歌唱テクニックを支えています。呼吸は発声に常時関係し続ける訳ですから重要な要素であることは当然なのですが、呼吸のみで発声の全てがまかなわれている訳ではありません。
声帯の使い方や共鳴腔の効率を変えるなど、呼吸以外にも行わなくてはならない作業が沢山あります。発声にはこれらを全て同時に行うバランスの良さが要求されるのです。
その中のどれか一部分だけを抜き出し、鍛えさせたからといって効率よく上達することはありません。呼吸に大きな問題を抱えている人は呼吸を鍛える必要がありますし、声帯の使い方に問題のある人はそこを鍛えます。
個人により上達の妨げとなる場所は違う訳ですから、それぞれに合ったトレーニング方法が要求されるのです。
にもかかわらず、何もかも腹式呼吸が出来ていないせいにするのはどうか?と思います。
例えば「腹式呼吸さえ身に付ければ高い声は出せる」これは明らかに誤った認識です。先程申し上げたように、呼吸は発声に常時関係し続ける訳ですから呼吸を無視することは出来ませんが、声の高低をつかさどる場所はあくまで声帯です。
声帯の使い方なくしてスムースな高音発声など望めないでしょう。
高音域への取り組み
「生まれつき声が低いのですが高い声は出るようになりますか?」
男女問わず頂く質問です。
まず、声域の低いほうの限界はその人の持つ声帯の長さと重さでほぼ限定されてしまいます。
ですが高い方の限界と言うのは声帯の長さや重さだけでは決まりません。
当然、短く、軽い声帯の人の方が高音を出しやすいのは当然ですが声帯を前後に引っ張る緊張力が強い人はかなり高音を出し得ることが出来ます。
さらに声帯を薄くして声帯の辺縁つまり、へりの部分を少ない接触面積で使う技術が発達すれば振動部分が少なくなるので軽くなり、振動数を多くして高音を出すことが可能になります。
すなわち高音の限界は声帯の形態ではなく発声技術で左右されます。
むしろ長い声帯の持ち主は低音が出る分、広い声域を確保出来る可能性があります。
地声のみで高音域を歌うトレーニングではすぐに限界が来てしまい、裏声の鍛錬を積まないと大幅な声域拡大は難しいと言えます。
裏声が発達した人というのは、少なくともそれだけ声帯を引き伸ばす能力があるということですが、問題はそれだけでは声量や思うような音色が出せないことだと思われます。
そこで必要なことは「声帯&共鳴腔写真」のコンテンツで紹介したように共鳴腔の操作による音色や音量の変化です。
発声というものは科学的にキチンと説明の付くものなのです。
正しい発声とは?
「正しい発声」これもよく聞く言葉だと思います。
「正しい発声があるなら間違った発声もあるの?」当然の疑問ではないでしょうか?
「正しい発声」について考えてみましょう。
ベルカント(オペラ)などは古典芸能としてのスタイルが確立されているので正しい発声が存在します。
対してポップスでは常に新しい音の追及がテーマに含まれますし、自由であることがその可能性を広げていると言えます。
ですから、これこそがポップスの正しい発声という具合に一つの発声に限定することは出来ないはずです。
ポップスにおける正しい発声とは「狙う音色や声量、音域を果たす上で最も効率の良い発声」と定義出来るものと考えられます。
逆に狙うべき効果に対して効率の悪い発声、例えば、より高音域を出したいと考える人が地声のみのトレーニングを行うなら、それは間違ったやり方であると言えるでしょう。
声量が欲しいと考える人が喉を開かずに発声するなら、これも間違っていると言わざるを得ません。
すぐに喉を潰してしまいポリープなどの音声障害を引き起こす可能性が高い発声(喉詰め発声など)も間違った発声と言えるのかもしれませんが、それらの使用判断は個人の主観でしか判断出来ないものであり、本人が承知の上でその表現手段を使うのであれば、間違っているから止めなさいとは言えません。
良い声にしていくという作業はその人の持つ眠れる能力を引き出すものです。共鳴効率を十分に生かしてなければ曇った薄っぺらな声になります。
意図的にその声を使うなら問題ありませんが、一般的に良い声とされる明るく厚みのある声にしたいのならヴォイストレーニングは欠かせません。
「自分は悪声だから歌は無理」と考える人もいますがトレーニングをせずして自分の可能性を限定してしまうのはもったいないことです。
貴方の喉の中には誰も気付いていない素晴らしい声が眠っているかもしれないのですから・・。
そして最終的な声の良し悪しは個人の主観でしか判断出来ないものです。
全ての人から好かれる歌手はいません。全ての人から嫌われる歌手も存在しません。
故に、トッププロでも常に上を目指して努力を続ける必要がありますし、全ての人に歌手になれる夢や希望を持つことが出来るのです。
リズムについて
一般的に、ドラムやパーカッションなどの打楽器をリズム楽器と呼び、
ピアノやギターをコード楽器、ヴァイオリンやサックスをメロディー楽器と呼びます。音楽はリズム、コード、メロディーが一体となって完成されるものですから、それぞれの楽器が見事な役割分担をしていると言えますね。
ですが、ポップスを演奏する際、全ての楽器に共通して要求されるのはリズムです。ヴォーカルとて例外ではありません。
ところが私達日本人は欧米人が感じるリズムやグルーブというものがなかなか理解できません。
日本古来の地方に伝わる様々な民謡などを調べると、その殆ど全てが偶数拍子で出来ており、唯一の三拍子が「どんぶらこ〜どんぶらこ〜」だったという話を聞いたことがあります。欧米では「ワルツ」や「ブルース」など代表的な三拍子のリズムが昔からあったのとは対照的な話ですね。
事の真意は別としても昔の日本人が自発的に奇数拍子のリズムを打ち鳴らすことは考えにくいのは確かです。
ギターを弾く際にも日本人はメロディーから、欧米人はリズムからピッキングするという話があります。
日本人はメロディーを考えながら弾くのでフレーズを間違えると、反射的に間違えた場所から弾き直そうとします。しかしバックの演奏は止まることなく流れて行きますし、過ぎた時間は戻りません。
対して欧米人は間違えてもそこを飛ばして次の音を弾こうとします。リズムを優先的に感じているからですね。
日本的リズムの捉え方に日本古来の「間」というものがあります。能や狂言などには欠かせない感覚による時間経過の捉え方は欧米人には真似のしようのないものだそうです。
文化習慣の違いから生まれたお互いのフォーマットの違いを真似る作業は容易ならざるものであるということですね。
グルーブという見えないものを文章で説明するのは難しいのですが、日本人はリズムの表を意識し、リズムの流れを一定に感じています。
欧米人は裏を意識し、一つのリズムの中で強弱と言うか、楕円のグルーブに緩急を付ける感覚があります。リズムの感じ方一つで歌詞の乗り方も変わってきてしまうのです。
ともすれば発声ばかりに目が行きがちなヴォイストレーニングですが、リズムも同等に必要なものであると言えます。
音程について
「声」「リズム」に続く歌を構成する三大要素に音程(ピッチ)があります。
余談ですが、マラソン選手にコーチが「もっとピッチを上げろ!」などとアドバイスしたりしますが英語の意味からすれば間違っています。
ピッチは音の高低を表す言葉ですから正しくは「テンポを上げろ!」になります。
話を戻しましょう。
音痴という言葉は皆さんご存知だと思いますが、医学的に本当の音痴は10万人に一人と言われており、実際には健常な聴覚と発声器官を持つ人であれは皆無だとも言われています。しかし「私、音痴なんです!」と言う人のなんと多いことか・・。
ピアノなどの楽器を使い、発声するのに無理のない音程を鳴らし、ゆっくりでも同じ音程が出せたのなら音痴ではありません。
そこから音程の移り変わりが速くなると音程がずれてしまう人は発声器官をコントロールする筋肉が上手く使えてないということです。
反復練習の積み重ねより徐々に筋肉の使い方を覚え、自分の意図した音程に正確に持っていくことができます。
私がこれまでに指導した音程の悪い生徒さんに感じたことは、筋肉の使い方もさることながら「正確な音程で歌うことに対する意識の欠如」です。
音程をダーツの的に、声を矢に例えたとしましょう。
大抵の人は的のどこかに矢が当たればそれで良いと感じています。
しかし、正確な音程というのは、的のど真ん中以外に存在しません。
仮にA4の音を発声しようとしたとします。
A4の基本周波数を440ヘルツと考えた場合、出すべき声の高さは440ヘルツであり、439ヘルツでも441ヘルツでもないのです。
僅か1ヘルツの周波数の違いを聞き分けられる人はいないとは思いますが、自分が歌う全ての音に対し、常に的のど真ん中に矢を当てる気持ちでピッチを取る意識を自分の中に持つことが大切です。
その意識を日頃から強く持って練習することによって、あなたの歌のピッチはより正確になっていきます。
音程の上下に合わせて手を動かすシンガーを見かけますが、このようなやり方で音程を形でイメージするのも良いですね。
もちろん正確な音程が歌の全てではありませんし、全く音程の取れていない歌に感動し、涙することさえあるでしょう。
しかし、ピッチが正確であるに越したことはありませんし、意図的に音を外すのと、合わせようとして外れるのでは大きな違いがあります。
また、楽器を全く演奏しない人は、ハーモニー感覚が理解し辛いなど、それだけでシンガーとしてハンデを背負うことになるので、キーボードやピアノなどのピッチの安定した楽器を購入した上で練習することをお勧めします。
マイクについて
シンガーが使うマイクにはダイナミックとコンデンサーの二種類のタイプがあります。
一般的にダイナミックマイクはライブに使い、コンデンサーマイクはレコーディングに使われます。ライブに使えるタイプのコンデンサーマイクもあります。
普通はダイナミックマイクのお世話になる機会が圧倒的に多いと思うのでダイナミックマイクについて書きたいと思います。
大半の人はマイクのメーカーや型番などにはあまり気を配っていないのではないでしょうか?
実際にはマイクのメーカーや型番により強調される周波数帯域が異なり音質や音色に差があります。自分の声に合うもの合わないものなど相性の問題もありますので、こだわってみるのも良いと思います。
ダイナミックマイクの代表格と言えば何と言ってもシュアーのSM58でしょう。
周辺機材もこのマイクに合わせて設計されていると言っても過言ではありません。
各マイクメーカーの音色を知る上でもこのマイクの音質を基準に考え、よりブライト、ウォーム、繊細なニュアンスを拾うなど、違いをチェックすることでお気に入りの一本を見つけ出すことが出来ると思います。
シュアーSM58型マイクの場合、音を拾う部分はマイクヘッド部分にあり、ボディ(取っ手部分)は空洞になっています。
マイクの音色はヘッド部の性能だけで決まると思われがちですが、この空洞部の容積がマイクの音色を決めるのに大きな役割を果たすそうです。
容積が大きければ低域がより強調され、小さければ低域がカットされます。
ここの容積をどの位の大きさにするかがマイクの音色を最終決定させますのでマイクデザイナーの腕の見せ所だそうです。
私はこれまで10本近くのマイクを購入し好みのマイクを探してきました。
それぞれに良さがあり、どれがベストとは言えませんが・・。
コーラスが三声以上重なるグループでしたらマイクは同じもので統一した方がベストです。
一人が違うメーカーのマイクを使用すると良くも悪くもその人だけ音色だけが浮いてしまいハーモニーが綺麗に混ざらないことがあります。
通常のライブハウスなどでもリハーサルに時間が取れない状況で扱った経験のないマイクを渡されたらPAオペレーターも困惑しますので、「このマイク使っても大丈夫ですか?」と一声かけるようにした方が良いでしょう。
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